近年、柔軟性や拡張性に優れているという観点から、ITインフラ環境にパブリッククラウドを利用する企業が増えてきました。パブリッククラウドの多くは初期投資が不要で、従量課金という料金形態の特徴がある一方で、コスト管理の重要性が高く問われます。AWSなどのパブリッククラウドはコスト管理を適切に行わないと思わぬ利用料金がかかってしまい、クラウド利用料がビジネスに大きく影響を及ぼしてしまう可能性があります。本記事では、AWSのコスト管理について網羅的に解説いたします。1、AWSコスト管理の重要性AWS(Amazon Web Services)は、柔軟性・拡張性に優れ、必要に応じてリソースを迅速に増減できるクラウドサービスです。 また、利用したリソースに応じて料金が請求される従量課金制という特徴があります。柔軟性・拡張性に優れた従量課金制度の特徴から効率的な利用を促す一方で、コスト管理を怠ると予期せぬ高額請求につながる可能性があります。適切な管理により、コストを予測可能で制御可能な範囲に保つことができますしかし、ユーザーにとっては使いやすい選択となる一方で、知らずのうちにコストが膨れ上がってしまうことがあります。例えば、下記のような事例が挙げられます。AWS利用で陥りがちな状況説明リソースの使いすぎ必要以上のサーバーやストレージを利用してしまうアイドルリソースの放置使用していないリソースを停止し忘れてしまう最適な料金プランの選択ミス利用状況に合っていないプランを選択してしまうコストを適切に管理することによって、自社のコストを最適化し、制御可能な範囲に保つことができます。2、AWSコスト管理におけるよくある課題AWSのコスト管理は、多くの企業にとって頭を悩ませる問題です。本章では、AWSのコスト管理についてよくある課題として挙げられる以下3つを紹介します。コストの全体像を把握できていない予期せぬ高額請求のリスク従業員のコスト意識の醸成(1)コストの全体像を把握できていないAWSのサービスは多岐にわたり、それぞれで課金体系も異なり複雑なため、コストの全体像を把握することが困難なことです。また、コスト管理する単位が、アカウント別・サービス別・プロジェクト別など各社各部署それぞれの観点があるためさらに複雑さを増します。可視化の観点課題例サービス別どのサービスでコストが発生しているのか、内訳を把握するのが難しい。プロジェクト別プロジェクトごとにコストを可視化することが難しいため、コスト配分が困難。利用状況リソースの使用状況を把握できず、無駄なコストが発生している可能性がある。時間軸コストの推移を時系列で把握することが難しく、コスト増加の兆候を早期に発見できない。これらの課題により、効果的なコスト管理ができず、無駄なコストを削減できていない可能性があります。(2)予期せぬ高額請求のリスクAWSの利用料金は、リソースの使用状況に応じて費用が変動する従量課金のため、気付かないうちにコストが上昇しているケースが少なくありません。利用開始時の設定ミス使用していないリソースを放置不具合などによる無限ループリソースの過剰消費想定外のデータ転送量の増加要件以上のディスクサイズや性能の高いインスタンスの選択このようなコスト上昇に適切なタイミングで気づくことができなければ、想定を大きく超えた請求が発生し、事業計画に影響を及ぼす可能性も考えられます。(3)従業員のコスト意識の欠如AWにおけるコスト管理の課題には技術的な課題の他に、従業員のコスト意識の醸成ができていないなど組織的な課題も存在します。代表的な事例は、以下の通りです。パフォーマンスや開発スピードを優先し、コストの優先順位が下がる使用しているリソースのコストへの影響が可視化できていないコストの責務が明確化していない実際にコスト管理の対策を実行する担当者は、コストに対して責務を負っていない場合も一部あります。その場合、直接的な評価を感じづらく、コスト意識が弱くなってしまいます。3、コスト管理における基本:FinOpsの実践コスト管理の基本的な考え方として、「FinOps」が重要な概念として提唱されています。FinOpsとは、Finance(財務)とDevOpsを組み合わせた造語で、クラウドの費用管理を効率化する為の考え方です。クラウドコストの最適化を主な目的とし、クラウド環境に潜む余剰リソースを見つけ出して、効果的にコスト削減を行います。FinOpsは、大きく3つの段階に分けられます。段階説明Inform:可視化クラウドサービスの利用状況を可視化し、コストの発生源を把握します。Optimaize:最適化可視化されたデータに基づき、不要なリソースの削除や、割引プログラムの活用などを行い、コストの最適化を行います。Operate:運用最適化された状態を維持するために、継続的にコストと利用状況を監視し、ポリシーの調整や自動化などを実施します。これらの段階を踏むことで、クラウドコストの透明性を高め、効率的かつ効果的なコスト管理体制を構築できます。本章では、AWSのコストにおける3つのステップを解説します。(1)コストの可視化コストの可視化とは、AWSの利用状況を様々な角度から分析し、現状を把握することです。 可視化ができていないと、無駄なコストが発生している箇所を特定できません。例えば、以下の項目を可視化できます。項目説明サービス別EC2やS3など、どのサービスにどれだけの費用が発生しているかを把握できます。プロジェクト別開発中のシステムや部門ごとなど、プロジェクト単位でのコスト配分を可視化できます。利用状況リソースの使用率を把握することで、必要以上にリソースを確保していないか、無駄なコストが発生していないかを分析できます。時間軸時間帯によるアクセス数の変化を捉え、適切なリソース調整に役立てることができます。これらの可視化を通して、コストの発生源を明確化し、課題を特定するとともに、次のステップであるコスト最適化へと繋げます。(2)コストの最適化コストの可視化を通じて課題を把握したら、次は具体的なコスト削減策を実行に移します。 AWSでは、様々なサービスや機能が提供されており、目的に最適なものを選択することが重要です。リソースのサイズを最適化インスタンスの開始・停止のスケジューリング長期間利用する予定のリソースなどの割引の活用データの保存期間やアクセス頻度に応じたストレージサービスを選択これらの手法を組み合わせることで、より効果的にAWSコストを最適化できます。パフォーマンスとコストのバランスを取りながら、効率化を図ることが重要です。(3)コストの運用コストの運用とは、コストの可視化・最適化に基づいて、継続的にコストを監視・管理し、改善策を講じていくプロセスです。このフェーズでは、以下の様な活動が重要になります。コスト管理の責任者・担当者を決め、権限と責任を明確化利用制限や承認フローなど、組織全体で遵守すべきルールを策定予算アラートの設定やリソースの自動停止など、可能な範囲で自動化を推進コスト管理の状況を定期的に見直し、必要に応じて改善策を検討コストの運用は、一度設定すれば終わりではなく、継続的な改善が求められるプロセスです。PDCAサイクルを回し、改善を積み重ねていくことが、AWSコストを最適化し続けるために重要です。また、コスト担当者の他に開発・運用担当者や情報システム部門、ビジネスチームにもコストを「見える化」しておくことが重要です。これらのステップを通じて、組織全体でクラウドコストに対する意識を高め、効率的なリソース利用を促進する文化を醸成することです。4、AWSコスト管理・削減におけるポイント前章で解説した「コスト管理における基本」を踏まえて、AWSのコスト管理・コスト削減におけるポイントについて本章で解説します。実際に弊社が実践して、重要だと感じたポイントをまとめています。(1)コスト管理において最重要項目は可視化コスト管理における最重要項目であり、最初に手をつけるべきはコストの可視化です。コストの可視化をすることによって、どこで何にコストがかかっているのか現状を正しく理解することができます。コスト削減が目標の場合、どこで何にコストがかかっているのかを明確にしない限り、効果的な削減は難しく、むしろ目標額に到達するためのプロセスが不透明で、無駄に時間を費やすリスクがあります。コスト削減をするにも必ず目標があり、それに向けて効率よく動くことが求められます。特に、大きな削減を目指す場合は、インフラの調整だけでは不十分で、アプリケーションの変更やサービスの提供範囲に影響を与える可能性も出てきます。これらの調整や実装は、予想以上に時間がかかることも多く、結果として予定していたスケジュールを大幅にオーバーしてしまうこともあるため、現状を正確に理解するための可視化が重要です。(2)各部署との連携コスト管理・コスト削減をしていく上で、重要になってくるのが各部署の連携や協力です。コストの目標達成のためには、各方面に影響を及ぼす可能性があるため、コスト担当部署だけで完結できる範囲には限界があります。特に、開発チームやビジネスチームとの連携、そして顧客との調整も必要になるかもしれません。責任範囲や知見にもそれぞれのギャップがあるので、正しく説明し、お互い理解する努力が必要となります。(3)コスト管理サービス・ツールの利用前述した通り、コスト管理やコスト削減においての重要項目として「コストの可視化」を挙げました。効率的にコストを可視化するには、サービスやツールを有効的に活用することが求められます。また、前述した「(2)各部署との連携」でも、共通のコストの可視化基盤があれば、各部署とのコミュニケーションを有効的に進めることが可能です。次章にて、おすすめのコスト管理サービスを紹介しますのでぜひご参考ください。5、AWSコスト管理のおすすめサービスAWSでは、コスト管理を効率的に行うための様々なツールが提供されています。ここでは、特におすすめのツールをいくつかご紹介します。今回ご紹介するツールは、以下の3つです。AWS Cost ExplorerAmazon QuickSight × Data Exportssrest(スレスト)これらのツールを活用することで、AWSコストの可視化、分析、最適化を効率的に行うことができます。(1)AWS Cost ExplorerAWS Cost Explorerは、AWSのサービス利用料金を可視化し、分析できる無料のサービスです。過去のコスト推移やサービスごとの内訳を把握できます。AWS Cost Explorerを利用することで、以下のことが可能になります。コストと使用状況のグラフ表示将来のコスト予測AWS Cost Explorerは、AWSコスト管理の基本となるサービスであり、コストの可視化と分析に役立ちます。(2)Amazon QuickSight × AWS Data ExportsAmazon QuickSightとAWS Data Exportsを組み合わせて利用することにより、AWS Cost Exploreより詳細で高度な分析をすることが可能になります。Amazon QuickSightは、AWSが提供するクラウドベースのビジネスインテリジェンス(BI)およびデータ可視化サービスです。広範囲なデータソースに対応し、高度な可視化と分析機能を提供しています。AWS Data Exportsは、請求およびコスト管理のデータをSQLで柔軟にエクスポートが可能になったサービスです。QuickSightと統合してデータを視覚化することができます。AWS Cost Explorerよりさらに詳細な情報と高度な分析をしたい方にとっては、 Amazon QuickSightとAWS Data Exportsを組み合わせて利用することがおすすめです。(3)srest(スレスト)最後に、弊社が提供するAWSの横断監視ツール「srest(スレスト)」は、AWSの複数あるアカウントを横断して、イベントログとコストを可視化するサービスです。srestでは、上記で挙げたAWS CostExplorerやData Exportsにも対応しています。srestの特徴は下記の通りです。アカウント/サービス単位や月・週・日など様々な角度から分析可能国産ツールならではの直感的なデザインでコスト担当者以外にも親しみやすい設計社内の事情でAWS Organizationsが使えない場合など、srestで1つのツールにコストやログの情報をまとめることが可能です。sreestを活用することで、AWS環境全体の可視化をすることができ、障害の早期検知やコスト管理を効率化するのに役立つツールとなります。まとめITインフラ環境は、企業の収益に直結するので、AWS環境におけるコスト管理は、とても重要です。本記事では、AWSコスト管理について網羅的に解説しました。ツールを活用してコスト管理を効率化しつつ、可視化、最適化、運用のサイクルを回すことで、効果的かつ継続的なAWSコスト管理を実現できます。AWSには、紹介したサービスの他に、下記のようなコスト管理に役立つツールを提供しています。AWS BudgetsAWS Cost Anomaly DetectionAWS Cost and Usage Reportこれらを駆使することで、自社に最適なコスト管理が可能となります。「アカウントを横断して一元管理したい」「1つのツールでまとめたい」「開発チームや経営陣・ビジネスチームとの共通基盤が欲しい」という方には弊社のツール「srest」にぜひお問い合わせください。