急増するクラウドインフラのコスト、予算超過の不安、煩雑な管理…そんな課題を抱える企業が注目するのが「FinOps」。クラウド時代に必須の財務管理手法として世界中で広がりを見せています。この記事では、FinOpsの基本から導入のメリット、実践方法までをわかりやすく解説します。1、FinOpsとは?クラウドインフラを導入した企業の中には、「思った以上にコストがかさんで困った…」という経験をされた方も多いのではないでしょうか。そんな課題を解決するために注目されているのが「FinOps(フィンオプス)」です。FinOpsとは、クラウドインフラの利用に伴うコストをチーム全体で管理・最適化しながら、ビジネスの価値を最大限に引き出すための新しい考え方です。FinOpsは「Finance(財務)」と「DevOps(開発・運用)」を組み合わせた言葉で、「クラウインフラドの使い方とコストの使い方を、部門の枠を超えて協力して考えていこう」という文化を表しています。単なるコスト削減ではなく、エンジニアや経理、事業部門などが一緒に「どこに、どれだけ投資すれば成果が出るのか」を可視化し、効果的なクラウド活用を目指します。例えば、売上に直結するサービスには積極的に投資を行い、それほど重要でない部分は最適化する、といった柔軟な判断がFinOpsの本質となり、クラウドインフラの利用に対して「ただ安くする」のではなく、「価値を最大化するために、どう使うか」を全社で考える。これこそが、FinOpsが今、世界中の企業で注目されている理由です。2、FinOpsが求められる背景クラウドインフラの普及により、企業はこれまでにないスピードでシステムを構築・拡張できるようになりました。AWSをはじめとした主要なクラウドインフラサービスの登場により、柔軟性とスケーラビリティが手に入る一方で、「気づけばコストが膨らんでいた」「誰がどれだけ使っているのか見えない」といった課題も表面化しています。FinOpsは、クラウドインフラサービスの利用におけるコスト最適化と価値創出のバランスを図る新しい運用アプローチです。クラウドインフラの多くは「従量課金制」を採用しており、使った分だけコストが発生する仕組みです。このモデルは非常に合理的である一方、運用状況を正確に把握していないと、無駄なリソースやオーバープロビジョニングが積み重なり、予期せぬコスト増加につながるリスクがあります。特に複数の部署やチームがそれぞれクラウドインフラを利用する場合、コストの可視化が難しくなり、「クラウドコスト支出のブラックボックス化」に悩まされる企業も増えています。さらに、近年の円安や物価上昇といった経済環境の変化も重なり、クラウドコストのブラックボックス化支出は企業経営における重要な課題の一つとなっています。日常的なバックアップやデータのリカバリーといった基本的な運用ですら、設定次第では大きなコストインパクトを生むことがあり、経営判断への影響も無視できません。しかし、現代において「クラウドインフラを使わない」という選択肢は現実的ではありません。求められるのは、無駄な支出を抑えつつ、必要な部分には的確に投資するという、戦略的なクラウドコスト支出管理です。FinOpsはその実現を支える考え方として、企業全体で「コストの価値」を判断する文化を築く手助けをします。クラウドインフラの活用が企業成長のカギを握るようになった今、FinOpsは単なるコスト削減手法ではなく、「持続的な価値創出のための基盤」として、重要な役割を担っているのです。3、FinOpsの基本原則FinOpsを組織に根付かせるには、いくつかの基本的な考え方を共通認識として持つことが大切です。本章では、FinOpsを実践するための6つの原則について、わかりやすく解説します。参考:FinOpsの原則(1)FinOpsは専任チームが主導するFinOpsは、IT部門や経理部門などが個別に動くだけでは成立しません。全社のクラウド支出を「可視化」し、最適な意思決定を導くためには、中心となって運用をリードする専任のFinOpsチームが必要です。このチームがクラウドインフラの使用状況を把握し、コスト最適化のガイドラインを示すことで、組織全体の動きを一貫性のあるものにします。調達・契約・配分・モニタリングまでを俯瞰して動かせる、専門性のある中枢チームがFinOpsの心臓部となります。(2)クラウドインフラの利用は全員が責任を持つFinOpsでは、クラウドインフラの利用責任を一部の部門に限定せず、利用するすべてのチームが「自分ごと」として主体的に関わることが前提です。エンジニアやプロダクトオーナーも、自らの判断でサービスを選択・利用する以上、コスト管理にも積極的に目を向ける姿勢が求められます。(3)ビジネス価値を重視した意思決定を行うFinOpsにおける支出の判断基準は、「いくらかかるか」ではなく「その支出がどれだけの価値を生むか」になります。単純にコストを削ることよりも、投資に見合った成果が得られるかどうかを軸に意思決定を行います。そのためには、コストと成果の関係性を「可視化」し、現場と経営の両方が納得できる根拠を持って話し合うことが大切です。FinOpsはこの「価値に基づく投資判断」を支える仕組みでもあります。(4)チーム間の連携と協力を強化するクラウドインフラに関わる業務は、エンジニアや財務部門、事業部門など、社内のさまざまな部署にまたがっています。それぞれに異なる優先事項があるなかでも、FinOpsは部門間の連携を促し、共通のゴールを見据えた協力体制を築くための考え方です。例えば、エンジニアが安定したシステム運用を維持しながら、財務部門がコスト管理の視点を取り入れることで、持続可能なクラウドインフラの活用が可能になります。(5)クラウドインフラのコスト変動を柔軟に活用するクラウドインフラは従量課金制で、使った分だけコストが発生します。この「変動性」をうまく活かすことが、FinOpsでは非常に重要です。繁忙期には一時的にリソースを増やし、落ち着いた時期には抑える。あるいは割引制度や予約インスタンスなどを活用することで、長期的なコストの最適化が可能になります。こうした柔軟性のある運用こそが、クラウドインフラの強みであり、FinOpsの肝とも言える部分です。(6)レポートは誰でも見やすく、リアルタイムで提供するFinOpsの取り組みを成功させるためには、クラウドインフラの利用状況やコストに関する情報が誰でも簡単に確認できる状態であることが重要です。わかりにくい表や複雑なデータではなく、直感的に理解できるレポートが必要となります。また、情報がリアルタイムで更新されることで、問題が起きる前に予兆を察知し、迅速に対応することが可能になります。可視化と即時性の両方がFinOpsの実践を支える土台となります。4、FinOpsの実践フレームワークFinOpsは理論だけでなく、実際の現場でどう運用するかが重要です。そのための枠組みとして、FinOps Foundationでは「3つのフェーズ」から成る実践フレームワークを提示しています。これを繰り返し実行することで、組織全体の成熟度が高まっていく循環型の仕組みとなっています。(1)情報提供フェーズ|クラウドインフラのコストの可視化最初のステップは、まず「今、どこに、どれくらいのクラウドコストがかかっているのか」を正確に把握することです。可視化ができていなければ、どこを改善すべきかも分かりません。この段階で、各部署ごとの利用状況を明確にし、どのサービスにどれだけのコストがかかっているかを把握します。例えば、月に数十万円のクラウド請求があったとしても、それがどのプロジェクトやどのサービスに割り当てられているのかが見えなければ、適切な判断ができません。情報の透明化により、各部門が自分たちの利用に責任を持ちやすくなり、最適化の議論も進めやすくなります。(2)最適化フェーズ|コスト削減のための戦略クラウドコストの全体像が見えてきたら、次に行うのが「どこにムダがあるのか」「どこを改善できるのか」の検討です。このフェーズでは、リソースの使い方を見直し、より効率的な運用方法を探ります。例えば、使用頻度の低いリソースを停止したり、割引が適用される利用形態に変更したりといった対策が考えられます。ただし、単にコストを減らすことを目的にするのではなく、サービスの品質やパフォーマンスを維持しながら、本当に必要なリソースを無理なく適切に使うことが大切です。ライセンスの条件にも注意が必要で、コスト削減を目的に別のサービスやプランへリプレイスした結果、かえって追加のコストが発生してしまうケースもあり、正確な分析と戦略的な判断が欠かせません。(3)運用フェーズ|持続的なパフォーマンス管理最適化を実施した後もクラウドインフラ環境は絶えず変化し、利用状況も日々更新されるため、継続的なモニタリングと調整の仕組みが不可欠です。このフェーズでは、事前に設定した目標に対する実際のパフォーマンスを定期的に評価し、自動化された仕組みで最適な状態を維持します。例えば、リソースの過不足をリアルタイムで検知できる体制があれば、急激なコスト上昇やパフォーマンス低下にも迅速に対応可能です。また、レポートやダッシュボードで経営層と現場とを継続的に情報共有し、改善サイクルを確実に回していきます。5、FinOpsに関わる主な関係者FinOpsは、特定の部門だけで完結するものではなくクラウドインフラの利用状況や支出に関わる多くの部署が連携し、それぞれの立場から協力し合うことで、初めて効果を発揮する仕組みです。本章では、FinOpsにおいて重要な役割を果たす5つの主要な関係者についてご紹介します。(1)役員レベル(CTO、CFOなど)CTO(最高技術責任者)やCFO(最高財務責任者)など、経営層にあたる人々は、クラウドインフラへの投資が企業の成長戦略に沿ったものであるかを見極める役割を担います。特に、大規模なITプロジェクトの予算を管理したり、運用の透明性を高めたりする場面で、中心的な役割を担うことが求められます。また、FinOpsの導入そのものを後押しする存在としても重要です。(2)事業・プロダクトオーナー新サービスの立ち上げや、既存プロダクトの拡張を担う事業部門やプロダクトオーナーもFinOpsにおける重要な関係者です。クラウドインフラリソースが実際にどのような価値を生んでいるかを把握し、成長性の高い部分に適切な投資を行うための判断を行います。クラウド利用の現場に近い立場だからこそ、実務レベルでの最適化にも積極的に関わることが求められます。(3)エンジニアリングとオペレーションチームシステム開発やインフラ運用を担当するエンジニアやSRE(Site Reliability Engineer)などのオペレーションチームは、実際にクラウドインフラ環境を構築・管理する役割を担います。FinOpsにおいては、クラウドリソースの利用状況を的確に把握し、効率的にリソースを運用する責任があり、チームの行動がコストに直結するため、FinOpsの考え方を実践する上で中核となる存在です。(4)財務・調達部門クラウドの契約や請求、コスト配分などを担当する財務・調達部門は、FinOpsを会計・契約面から支える存在です。コストレポートの分析や、複数アカウントの支出統合、割引プランの交渉など、クラウド投資の実務的な側面に深く関わります。FinOps専任チームと連携しながら、正確で透明性のあるコスト管理を実現する役割を担います。(5)FinOps実践者FinOpsの運用を実際に推進する専門人材です。FinOpsの原則に基づき、各部門との橋渡し役を担いながら、クラウドの使用状況やコストに関するデータを分析し、改善策を提案していきます。また、組織全体にFinOps文化を定着させるための啓発や教育活動も行います。FinOpsの知識と実務経験を持ったプロフェッショナルとして、全体のバランスを見ながら活動していきます。6、FinOpsレポートとは?FinOpsを実践する上で欠かせないのが「FinOpsレポート」です。「FinOpsレポート」は、クラウドのコストや利用状況を正確に把握し、関係者全員が同じ情報をもとに意思決定を行うための、重要な情報基盤となります。レポートの質がFinOpsの成否を大きく左右すると言っても過言ではありません。FinOpsレポートでは、複数のクラウドアカウントやプロジェクト、部門にまたがるコスト情報を一元的に集約し、可視化を行います。この仕組みにより、クラウドインフラ全体の支出構造が明らかになり、コストが集中している領域や非効率な利用箇所の特定が容易になります。さらに、理想的なFinOpsレポートには以下のような要素が含まれます。課金データと使用状況の詳細な可視化チームやサービス単位でのコスト配分の明示実費を部門ごとに割り当てる仕組み(内部請求)や、利用状況を参考として提示する仕組み(情報共有)予算と実績の差異分析、ならびに将来の支出予測これらの情報をリアルタイムかつ視覚的に把握できる環境を整えることで、クラウドインフラの使いすぎを早期に検知し、迅速な対策が可能となります。また、予算管理の精度も向上し、中長期的なIT戦略の策定にも有用です。FinOpsレポートは単なる帳票ではなく、企業におけるクラウドインフラ戦略の「現状を映し出す鏡」として機能します。可視化によってはじめて、最適化と改善に向けた具体的なアクションを実行できるようになります。7、自動化がFinOpsに果たす役割FinOpsを継続的に成功させるには、自動化が極めて重要です。クラウドインフラ環境は常に変動し、利用状況も日々移り変わるため、人手だけで管理を続けるのは非効率であり、実務上も持続が困難です。そのため自動化の仕組みを取り入れることが、FinOpsの実践において欠かせない要素となっています。例えば、リソースの利用量が急増した際に自動でアラートを発出したり、あらかじめ設定した条件に基づき、未使用リソースを自動的に停止するような機能は、不要な支出を防ぐ上で有効です。リソースの監視・制御を自動化すると、エンジニアや担当者がコストを常にチェックする必要がなくなり、本来の業務に専念できるようになります。自動化によって取得した最新データを活用すれば、コスト推移や利用傾向の可視化が大幅に進み、意思決定のスピードと精度も飛躍的に高まります。加えて、「コンプライアンスの維持」や「ライセンス遵守」といった重要課題にも対応できる点が、自動化導入の大きなメリットです。8、FinOps導入の課題FinOpsは、クラウドインフラのコスト財務管理において有効なアプローチとされていますが、導入や定着にあたっては、いくつかの課題を伴うことも少なくありません。業務フローの変更にとどまらず、組織構造や意思決定の在り方にまで関わるため、仕組みを取り入れるだけでは十分とは言えない状況も見受けられます。本章では、FinOpsの導入に際して多くの組織が直面しやすい、代表的な5つの課題について紹介します。(1)FinOpsの普及日本国内では、FinOpsという言葉自体がまだ一部の専門家や企業にしか知られていないのが現状です。海外では大手クラウドユーザー企業を中心に導入が進んでいますが、日本では情報の不足や理解の浅さが、普及の妨げになっています。関係者がFinOpsの意義を理解し、自社に必要だと実感するまでには時間がかかることも多いです。(2)企業文化の変革FinOpsを根付かせるには、「コスト管理は財務部門の仕事」という従来の考え方を見直し、全社でクラウドインフラのコスト支出に向き合う意識改革が必要です。しかし、これまでの業務スタイルを変えることには抵抗があり、特に大企業や歴史のある組織では、文化的な壁が大きな障害となることがあります。(3)クラウドインフラのコストの可視化FinOpsにおける出発点である「コストの可視化」は、想像以上に難易度の高い作業です。複数のクラウドサービスやアカウントが混在する環境では、誰がどのサービスを利用し、どれだけのコストが発生しているのかを正確に把握することが困難になります。特に、部署単位でクラウドインフラのコストを割り振るには、明確なルールと適切なツールの整備が欠かせません。実費を各部門に配分する仕組みを構築することで、利用責任の所在が明確になり、より効果的なコスト管理が可能になります。(4)FinOps導入に必要なスキルFinOpsは、財務とITの知識を横断的に理解している人材が求められます。しかし、そうしたスキルを持つ人材はまだまだ少なく、社内で育成するにも時間がかかります。また、組織横断的な調整が必要になるため、プロジェクトマネジメント能力やコミュニケーション力も重要です。(5)技術的課題FinOpsを支えるためのレポート作成や自動化には、相応の技術的基盤が必要です。例えば、クラウドインフラの利用状況をリアルタイムに収集・分析する仕組みを構築するには、専用ツールやAPIとの連携、ダッシュボードの設計などが求められます。ツールの導入コストや社内システムとの互換性など、技術面の課題も無視できません。9、FinOps導入の解決策FinOpsを導入する上での課題は少なくありませんが、それらを乗り越えるための具体的な解決策も明確になってきています。本章では、効果的にFinOpsを組織に根付かせるための3つの柱となるアプローチについてご紹介します。(1)管理手法の構築まず必要なのは、組織に適した「クラウドインフラの支出コストの管理手法」を構築することです。明確なポリシーとルールを定め、クラウドインフラ利用に関する意思決定や責任の所在をあらかじめ整理しておくことで、無駄な支出や混乱を防ぐことができます。この段階では、予算策定の方法やコスト配分のルール、支出のモニタリング体制などを整えることが重要です。また、チームごとにKPI(重要業績評価指標)を設定し、成果が見えるようにすることで、関係者のモチベーションも高まります。(2)リソース管理クラウドインフラサービスでは、仮想マシン(インスタンス)やストレージ、ネットワークといったリソースを柔軟に構成できることが大きな特徴です。しかしこの利便性ゆえに、使われていないリソースが放置されたり、想定以上の構成で運用されたりすることで、不要なコストが発生しやすくなります。そのため、FinOpsではリソースの最適化も重要なテーマのひとつとされています。例えば、利用されていないインスタンスの停止、不要なストレージの削除、割引プランの適用など、リソースの無駄を減らす取り組みが欠かせません。こうした取り組みを効果的に進めるためには、エンジニアだけでなく、事業部門や経営層も含めた「横断的なリソース管理」の体制が必要です。どのサービスにどれだけのリソースが必要かを各チームで共有し、無理のない範囲で効率化を図ることが、持続可能な運用につながります。(3)自動化ツールの活用日々変化するクラウドインフラ環境に対応するには、人手による対応だけでは限界があります。そこで、自動化ツールの導入が解決策として非常に有効です。例えば、コストの異常を検知して通知してくれるアラート機能や、定期的にレポートを自動作成するダッシュボードなどは、手間を減らしながら正確な管理を可能にします。さらに、リソースの自動スケーリングや、契約プランの自動見直し機能なども、クラウドコストの最適化を助けてくれます。最近では、FinOpsに特化した可視化・分析ツールも登場しており、自社に合ったツールをうまく活用することで、スムーズな導入と運用が可能になります。10、使いやすさと継続性が特長のAWSコスト管理ツール「srest(スレスト)」クラウドの利用が当たり前になった今、「いつの間にかコストが増えている」「どのサービスにどれだけ使っているか分からない」と感じる方は多いのではないでしょうか。そんな不安を解消してくれるのが、FinOpsの考え方です。FinOpsは、クラウドインフラの価値を最大限に引き出すために、チーム全体でコストと向き合い、効率よく活用していく仕組みです。弊社では、AWSコスト管理ツール「srest(スレスト)」を提供しています。srest(スレスト)は、複数のAWSアカウントのコストを一元管理し、ムダな支出を可視化・抑制しながら、必要なときにはアラートで通知を行います。無理なく、AWSの最適化をしたい方に、おすすめの選択肢です。興味を持たれた方は、ぜひ一度srest(スレスト)を試してみてください。