近年、クラウドやコンテナなどの新しいIT技術が急速に普及し、ITシステムの複雑さが増しています。ITシステムの安定運用には、従来の監視方法では対応しきれないという課題が生じています。このため、最新のシステムの安定性を確保するために、新たな監視手法であるオブザーバビリティが注目されています。1、オブザーバビリティとは?オブザーバビリティとは、システムの内部状態や動作を理解し、問題の発生箇所やその原因を特定するための能力を指します。オブザーバビリティについて、以下2つを説明します。オブザーバビリティの意味オブザーバビリティが生まれた背景(1)オブザーバビリティの意味オブザーバビリティ(Observability)とは、「Observe(観察)」と「Ability(能力)」を組み合わせた造語であり、日本語で「可観測性」と訳されることが多いです。オブザーバビリティの概念は、システムの内部状態を外部出力の情報から推測できる能力を指し、特にITの分野では重要な概念として注目されています。具体的には、オブザーバビリティはシステムやアプリケーションの動作を観測し、理解する能力を意味します。システムが稼働する際に生じる多くのデータや情報から、内部の状態を把握し、問題の発生箇所やその原因を特定することが可能です。したがって、オブザーバビリティは、システムのトラブルシューティングや問題解決に不可欠な概念であり、その重要性はますます高まっています。(2)オブザーバビリティが生まれた背景オブザーバビリティの概念が初めて提唱されたのは1960年代で、ルドルフ・カルマン(Rudolf E. Kálmán)によって線形力学系の分野で使用されたと言われています。その後、この概念はITの分野でも使われるようになり、特に近年のデジタル化の進展に伴い、その重要性が高まっています。オブザーバビリティの目的は、システムが稼働する際に生じる膨大な情報の中から、内部の状態を把握し、システムやアプリケーションの動作を可視化することです。これにより、システムにおける異常やエラーが発生した場合に、どこで何が起こったのか、なぜ起こったのかを迅速に特定し、適切な対処を行うことが可能になります。2、オブザーバビリティの特徴本章では、オブザーバビリティの特徴について、以下3つを説明します。柔軟な監視網羅的な管理障害解析の強化(1)柔軟な監視オブザーバビリティを備えた監視ツールは、コンテナや仮想マシンなどの物理的な制約を受けない対象に対しても、横断的な監視を実現します。これにより、負荷や拡張に応じて柔軟にマシン数を変更し、物理的な場所に制約されることなく、障害時には自動で別のデータセンターにデータを送信するなど、自由度の高い監視が可能となります。(2)網羅的な管理オブザーバビリティは、従来の監視手法では煩雑な各マシン・サーバーの監視に代わり、システム全体を網羅的に把握できるため、マイクロサービスの一元管理に適しています。これにより、障害が発生した際には、システム全体の状態を短時間で把握し、迅速に障害の原因を特定することが可能となります。(3)障害解析の強化オブザーバビリティは、CPU使用率などのメトリクスだけでなく、トレースやログなどの多様なデータを活用して、障害の根本原因を特定することができます。トレースでサーバー間のやりとりを確認したり、ログで詳細な動作を把握したりすることで、障害を多角的に可視化し、素早く解析することが可能です。特に複雑なシステムの場合、障害の迅速な特定に役立ち、サービスの安定性向上に寄与します。3、オブザーバビリティと監視(モニタリング)の違いオブザーバビリティと監視(モニタリング)は、システム管理における重要な概念でありながら、そのアプローチや目的において異なる側面を持っています。監視は、システムの状態や動作を定期的に観察し、特定の条件に基づいてアラートを発生させるプロセスです。これにより、システムの正常性や異常を把握することができます。一方で、オブザーバビリティは、監視によって得られた情報を基に、システム全体の健全性や問題の根本原因を包括的に把握することを目指します。監視では「何が起きたのか」を把握しますが、「なぜそれが起きたのか」までは理解するのが「オブザーバビリティ」の概念です。オブザーバビリティは、上記の「なぜ」を追求し、先んじた対応や予防、改善に繋げることを目指す概念になります。監視は特定の条件を設定し、システムの状態を定期的にチェックする一方、オブザーバビリティはシステムの内部状況を包括的に把握し、問題の予防や迅速な対応を可能にします。このように、監視はシステムの動作を観察することに焦点を当てていますが、オブザーバビリティはなぜそのような状況が生じたのかを深く理解し、システムの健全性を維持するための手段となり得るのがオブザーバビリティと監視の違いです。4、オブザーバビリティを高めるためには本章では、オブザーバビリティを高める方法につ以下3つ説明します。データ収集データ分析データ可視化(1)データ収集オブザーバビリティを高めるためには、まずデータの収集が重要です。この収集データには、メトリクス、ログ、トレースなどが含まれます。メトリクスは、定量的な指標となる数値データであり、CPU使用率やメモリ使用量などのリソース状況を示すデータです。ログは、OSやアプリケーションが出力する個別のイベント情報であり、イベントの内容や付随データをタイムスタンプと共にプレーンなテキストの形式で提供されます。トレースは、マイクロサービスを構成する複数のサービスの横断的な監視を可能にし、リクエストの追跡や問題箇所の特定、デバッグを容易にします。これらのデータをリアルタイムで収集することで、システム全体の状態を把握し、問題の早期発見に役立つでしょう。(2)データ分析次に重要なのは、収集したデータの分析です。データ分析によって、システムの動作やパフォーマンスに関する洞察を得ることができます。メトリクスの時系列データをグラフ化し、傾向やパターンを視覚化することで、システムの異常を検知しやすくなります。ログやトレースの分析では、特定のイベントやリクエストのフローを追跡し、問題の原因を特定することができます。更に、データ間の相関関係を分析することで、障害の根本原因を特定し、迅速な対応を可能にします。データ分析は、オブザーバビリティを高める上で欠かせないステップであり、システムの健全性と安定性を確保するために重要です。(3)データ可視化最後に、データの可視化がオブザーバビリティを高めるために不可欠です。可視化によって、膨大なデータをわかりやすく表現することができます。メトリクスのグラフ化やダッシュボードの作成によって、リアルタイムでシステムの状態を視覚的に把握することができます。ログやトレースの可視化では、イベントやリクエストのフローを視覚的に表現し、問題の特定やトラブルシューティングを支援します。データの可視化によって、システムの状態やパフォーマンスに関する洞察を得るだけでなく、チーム全体で情報を共有し、迅速な意思決定を行うことが可能となります。まとめ従来の監視と比較すると、オブザーバビリティはシステムの健全性を維持する上で非常にメリットが大きいアプローチになります。弊社では、イベントログの一元監視ツール「srest」を提供しております。srestは、各サービスから通知されるイベントログを集約し、複数サービスが一元管理されたプロダクトです。ご利用いただいている監視サービスと連携し、プロダクト(アカウント)を横断して、システムのどこで問題が起きているかをすぐに把握することが可能になります。お気軽にお問い合わせください。